高層湿原には特有な構造として、湿原の地表面には池塘(ちとう)と呼ばれる池沼(ちしょう)、小凸地(ブルト)や小凹地(シュレンケ)などが見られます。これを地塘と呼んでいます。湿原上の小さな凹地に水がたまり、やがて、ミツガシワなどの水生植物が生えるようになると、みずたまりの周囲に植物が著しい成長をはじめ、その植物遺体が堆積されていきます。堆積により岸が高くなると、水たまりは深さを増して小池となります。さらに成長し、池の深さが増すと、ミツガシワに代わってヒツジグサやオゼコウホネが生えるようになります。それが成長すると池は水生植物も生えない深い池となります。したがって、地塘は、そこに生えている植物の種類によっても、その深さを知ることができるのです。
八島ヶ原湿原の場合は、冬はマイナス25℃にもなる霧ヶ峰の寒冷な気候のせいで、水の中に微生物がないため、枯れた植物が腐らず、酸性の水を好むミズゴケ類を中心に、1年で約1mmの速度で形成されました。約1万2000年もの間に積もた泥炭層の厚さが、8mにもなりました。寒さだけでなく植物に水分をあたえる霧の存在も重要と考えられます。初期はヤマドリゼンマイなどの湿原植物の生育に適した2つの湿原が、それぞれ泥炭を堆積し、発達しながら接合しました。接合部は鬼ヶ泉水から南にのびる谷です。鎌ヶ池から湿原中央にかけては小山のようにもりあがり、ここには低層湿原植物群落から高層湿原植物群落までの各種の群落がみられます。
八島湿原の典型的なドーム、その上に発達する見事なチャミズゴケの小隆起は、現在では世界的にも有名だそうです。 八島 湿原には、高層化を促すイボミズゴケ、ムラサキミズゴケ、チャミズゴケが多く、ヌマガヤ、トマリスゲ、ツルコケモモ、ヒメシャクナゲ等を伴って斑点状に小隆起地形を形成しています。
小隆起と小隆起の間には小凹地があり、クロイヌノヒゲモドキ、イトミズゴケが主で、その地形の変化に応じて、ミカヅキグサ、ヤチスギラン等が混じった群落が見られます。泥炭が厚く発達した八島ヶ池は、ヌマガヤ、チャミズゴケの群落の中に、ヒメシャクナゲ、ツルコケモモ、ヌマガヤが生育しています。鬼ヶ泉水、鎌ヶ池周辺は、ヌマガヤ、イボミズゴケ群落で、ワタスゲ、ホロムイスゲも多いです。また、小低木群落もあり、そこにイヌウメモドキ、サワラ、ノリウツギ、ハイイヌツゲ等が混生しています。目立つのがヤマドリゼンマイ単独の群生です。遊歩道を歩くと、幾度も見られ、その数と規模に驚かされます。
水路には、低層湿原植物のホソバオゼヌマスゲ、アブラガヤ、ヨシを伴う群落が帯状にみられます。
他には、キリガミネアキノキリンソウやキリガミネアサヒラン、キリガミネヒオウギアヤメなどの八島湿原特有の植物も多いのです。
昭和14年に国の天然記念物の指定をうけ、さらに昭和35年に、国定公園内の特別保護地区にもなっています。
|